地域の資源として活用を 産業遺産の保存



 福岡県志免町の志免炭鉱跡に、地下から採掘した石炭を運び上げる高さ五三・六メートルの立て坑やぐらがそびえる。
 国営炭鉱として、日本の発展を支えた石炭鉱業の象徴といえる。このやぐらは上部にゴンドラの巻き上げ室があり、国内では唯一、世界でも三カ所しか現存していないという。貴重な建造物だけに、土木学会も「近代土木遺産」で最重要のAランクと評価している。
 しかし、やぐらの建設から六十二年が経過しており老朽化していたことから、二〇〇四年の台風時にはコンクリート片の一部が落下してしまった。
 そこで地元では、町のシンボルとして保存するか、解体するかで揺れたのである。だが住民の強い要望で取り壊しの危機を免れ、保存される方向だ。
 このように、九州には日本の近代産業の形成と発展に重要な役割を果たしてきた炭鉱跡や戦争遺構などの近代遺産が各地に現存している。
 その近代遺産が今、取り壊されるか、地域活性化の新たな資源として生まれ変わるかの岐路に立たされている。
 その意味で、一日に設立された「九州伝承遺産ネットワーク協議会(仮称)」に期待を寄せたい。
 連携するのは、長崎市の軍艦島や福岡県大牟田市と熊本県荒尾市の三井三池炭鉱の立て坑跡、北九州市の歴史的建造物など、産業遺産の保存・活用に取り組む七つの民間非営利団体(NPO)だ。
 各地の産業遺産をデータベース化し、産業遺産の魅力を発信するとともに、地域おこしや観光振興に役立てるという。さらに各地の取り組みを支援する「伝承遺産」認定制度を創設する予定だ。
 戦後、歴史的な産業遺産が相次いで壊され、その周辺にあった古い街並みも、足並みをそろえるかのように次々と姿を消していった。
 協議会の活動は、一見無用の長物と思われがちな産業遺産に、実は文化的価値が埋もれていることに気付かされ、地域の近代遺産を見つめ直す契機ともなる。
 岩手県東山町では、宮沢賢治が晩年に働いていた石灰工場の当時の様子を再現し、まちづくりのシンボルとしている。
 産業遺産は、地域の持つ固有の個性を表現しているといえる。歴史の重みを、時空を超えて、今に伝える生きた教材といえる。子どもにとっては本物を見る目を培い、故郷をいとおしむ心をはぐくむことにもつながるはずだ。
 協議会は、地域に現存する近代遺産の実態調査を実施し、地域住民との論議を重ねたうえで、民間と行政が協力して保存、活用方法を検討してもらいたい。
 行政も価値の高い近代遺産には積極的に介在し、保存を図る必要がある。
 産業遺産は、人類の多面的な活動を実証する「文化財」として位置付け、地域に潤いをもたらす資源として活用する視点が欠かせない。

西日本新聞 2月3日 社説より